【解答速報】平成26年度 弁理士試験


平成26年度 弁理士試験

試験日:2014年(平成26年)7月6日

<特許・実用新案法問題Ⅰ>
1-設問1
(1)翻訳文の提出
 甲は、外国語特許出願Yの明細書、請求書の範囲、図面の日本語による翻訳文を特許庁長官に提出する必要がある。(184条の4第1項)Yが取下擬制となるのを回避するためである。(184条の4第3項)

(2)国内書面の提出
 甲は、国内書面提出期間内に、所定の国内書面を特許長官へ提出する必要がある。(184条の5第1項)Yが出願却下されるのを回避するためである。(184条の5第2項1号、3項)

(3)手数料の納付、要約の翻訳文の提出
 甲は、国内書面提出期間内に、法195条2項の手数料を特許庁長官へ納付するとともに、Yの要約の日本語による翻訳文を特許庁長官へ提出する必要がある。(195条2項、184条の4第1項)Yが出願却下されるのを回避するためである。(184条の5第2項4号、5号、3号)

(4)出願審査の請求
 甲は、Yについて上記手続きの後、Yの出願の日から3年以内に、特許長官に出願審査の請求をする必要がある。(48条の3第1項、184条の17)Yが取下擬制となるのを回避し、(48条の3第4項)Yを審査官による審査に供するためである。

2-設問2
 法は、新規発明公開の代償として独占排他権(68条)を付与するため、新規性を特許要件として要求する。(29条1項各号)これは新規性のない発明に特許権を与えることは社会の技術の進歩に役立たないばかりでなく、かえって妨げとなることによる。
甲のαの配布により発明イが法29条1項1号に規定される公然知られたとは、守秘義務を負わない不特定人に発明が現実に知られ、かつ、技術的に理解されたことをいう。本問の場合、乙は、展示会で配布されたαを持ち帰っていることから、守秘義務を負わない不特定人にあたる。しかし、αは、外観からも、また、試食したとしても、イの技術的範囲に属するかを判別可能なものでなく、αの内容に関する情報は一切開示されていない。したがって、甲の配布によりαは技術的に理解されておらず、上記公然知られたに該当しない。(29条1項1号)しかし、法29条1項2号の公然実施には譲渡が含まれる。譲渡の場合には特段の事情がない限り、その発明は公然実施されたものと解すべきである。譲渡があった場合には、譲受人は製品を自由に分析することができ、これによって発明の内容を知ることができるので、譲渡人において内容を秘する意図があるとし得ないからである。本問の場合、αは、市販の分析器による分析の結果、発明イの技術的範囲に属すると判断できるものである。したがって、甲の配布は、法29条1項2号の公然実施に該当する。
以上のことから、甲の配布により発明イは新規性を喪失する。(29条1項2号)

3-設問3
 甲は、新規性違反の拒絶理由を回避するため、国内処理基準時の属する日である平成25年9月2日から30日以内に、新規性喪失の例外の適用を受けようとする旨の書面と、所定の証明書面を特許庁長官へ提出する手続をとりうる。(184条の14、30条2項、3項、
施規38条の6の4)
αの配布による新規性違反の拒絶理由を回避し、発明イについて権利化を図るためである。(29条1項2号、49条2号)

4-設問4
(1)特許出願の分割について
 既に特許査定の謄本が送達されていることから、甲は特許をすべき旨の査定の謄本の送達があった日から30日以内にYから発明ロを分割出願する手続をすることができる。(44条1項2号)ロについて、Yの出願時への遡及効を得つつ、別出願で権利化を図るためである。(44条2項)

(2) 出願審査請求について
 甲は、ロについての分割出願について出願審査請求をする手続をとることができる。分割出願について、取下擬制を回避し、ロについて権利化を図るためである。(48条の3第1項、4項)

5-設問5
 仮通常実施権に係るYについて、法44条1項2号の規定による特許出願の分割がなされたことから、丙は、ロについての分割出願についても仮通常実施権が許諾されたものとみなされる。(34条の3第6項)そして、ロについて特許権Aの設定の登録がなされていることから、丙は、Aに係るロについて通常実施権が許諾されたものとみなされる。(34条の3第2項)
通常実施権者は、その発生後にその特許権を取得したものに対しても効力を有するとされることから、丙のAに係るロについての通常実施権は、特許権Aを甲から取得した丁に対してもその効力を有する。(99条)したがって、丙は、丁に対して発明ロについての実施権を主張することができる。(78条2項)